筋肉や皮膚など足の組織は、動脈から流れ込む血液により酸素や栄養素など必要な物質が供給されます。役割を果たした血液の多くは静脈を通じて体の中枢に戻ります。また血液中の水分は一部が血管外の組織に漏出し、その後リンパ管を通じて戻っていきます。

この水分の流れが阻害されて足に残ってしまう状態が『浮腫(むくみ)』です。血管外に漏出する足の水分は一日あたり20リットルと言われており、これが全て中枢側に戻れなければむくみが生じます。水分の流れを阻害する原因は様々で、下肢静脈瘤や深部静脈血栓症などの静脈疾患、リンパ系の障害、老化による筋力低下や関節痛などによる運動機能低下で引き起こされる廃用性浮腫、内分泌疾患や自己免疫性疾患、心不全や腎不全、外傷、感染、薬剤など多岐にわたります。

足のむくみを簡単に見つけるには『むこうずね(弁慶の泣き所)』を親指で5秒間押してみて下さい。正常な足では指の跡が残りませんが、むくんだ足では凹んだ指の跡(圧痕)が残ります。このようにむくんだ足では①原因の検索②むくみ自体が引き起こす症状の対応が治療のポイントになります。

(※ むくみの原因によっては圧痕が残らないものや、足だけでなく全身にむくみが認められる場合もあります。)

むくみの原因検索

むくみはあくまでも原因に対する結果であり、むくみ自体が疾患ではありません。そのため原因を正確に診断して対応することが最も重要です。先に述べたように、むくみを引き起こす疾患は多岐にわたります。下肢静脈瘤のように比較的簡単に効果的な治療ができるものから、深部静脈血栓症のように場合によっては生命に危険を及ぼすもの、隠れていた慢性疾患の存在など、一口にむくみと言っても治療法はそれぞれ大きく異なります。

診断の第一歩は精度の高い問診と診察です。常用されている内服薬がむくみを悪化させている場合も少なくないので、診察に際してはお薬手帳や最近の健康診断結果などをご持参ください。よくみられる薬剤性浮腫の原因として血圧の薬(カルシウム拮抗薬やACE阻害剤)や糖尿病の薬(チアゾリジン系)、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)などが挙げられます。問診や診察の後、必要に応じて採血検査や胸部レントゲン撮影、超音波検査などを順次進めていきます。これらの診察や検査でむくみの原因を明らかにして、それぞれの病態に適した治療を開始します。

利尿剤や漢方薬をお求めになる患者さんをよく見かけますが、むくみの原因によっては悪影響を及ぼすことが少なくありません。正確な診断のもと、それぞれの病態に適した治療薬を正しく選択することが大切です。

むくみが引き起こす症状と対応

『むくみ』は結果であり病気ではないと述べましたが、むくんだ状態が長期に及んだり悪化したりすると様々な弊害を生じます。そのため原因疾患の治療と平行してむくみの管理が必要になります。

むくみは余剰水分の蓄積なので、悪化すると水分で足が重くなり歩行機能が著しく低下します。むくみでは片足あたり2-3kg程度の水分蓄積が当たり前のように生じるので、筋肉量が落ちた高齢者にとっては極めて大きな負担になります。加えてむくみにより関節の自由度が低下して可動域が制限されるので、ますます歩行様式が悪化します。歩行量が低下することによる全身の筋肉量低下は『フレイル』と呼ばれる全身の脆弱化の契機になります。そのためリハビリによる運動機能の維持や栄養管理はむくみの患者さんにとって非常に重要な部分を占めます。

運動機能だけでなく、むくみは湿疹や色素沈着、皮膚脂肪硬化、強い炎症反応を伴う蜂窩織炎、創傷治癒不良、難治性皮膚潰瘍、感染治癒不全による敗血症など、病態の進行に伴って様々な問題が生じます。このような問題は基礎疾患治療や清潔保持が不十分であったり、不用意な外傷が契機になることが大多数です。フットケアでの爪管理や足部創傷予防、スキンケアによる皮膚トラブルの予防、マッサージや圧迫などの理学療法、下肢挙上などの日常生活の工夫を根気よく継続して行くことが大切です。